ハルの毛に白いものが混じり始めた。白色に濃い茶色のブチの体にかわいい耳を垂らした生後二か月の幼いハルが我が家に来てから十年。もうハルがいない生活は考えられなくなっている。このところすっかり僕にくっついて過ごすようになった。ヨメサンが数度入院したりすることもあったせいか、不安になって僕にくっついていると安心できると思ったのかもしれない。家の中でどこに行くにも朝から晩までそばにいようとする。時刻にパンクチュアルで、朝僕の目覚まし時計が鳴る前にベッドのそばに来て「フン、フン」と顔に鼻をこすりつけて起こそうとする。朝ごはんの時間もそうだ。僕が朝、神棚や仏様のお茶を替えたり、拝んだりするのをソファの上で寝そべってじっと眺めていると思ったら、それが終わると自分の食卓の近くに来て正坐をしている。自分の食事の時間が来ているのがわかるのだ。
僕が仕事をしている時はそばのベッドの上で体を丸めてじっと寝ていると思いきや、部屋を出ようとするとぱっと起き上がって様子をうかがっている。ハルは習慣づいている以上に言葉がある程度わかるのだが、そのため頻繫に話しかけるようにしている。付き合いも上手で、言葉のコミュニケーションの不足を目や鼻の動きや様子でカバーしてくれる。最近は散歩の時も自分の主張を押し通すようになった。自分の行きたい方角でない時は、四つ足を踏ん張って抵抗しようとする。そのくせ人懐っこい。知っている人や優しそうな人を見かけるとすり寄って、後ろ向きに座って「さすってほしい」と背中を差し出すのだ。雨は相変わらず嫌いだ。雨の日はそそくさと用を足すと急いで我が家へ戻ろうとする。そして新緑の頃、雨が上がると外に行きたがり、喜んで道路わきの草木や花のにおいをかいで廻るのである。
