気候が良くなってくると、我が家のバルコニーが活動を始める。バルコニーは、間口十メートル、奥行三メートルで居間の大きなガラスの引き戸に直結した空間だ。以前は青空の真下にすのこを敷いた縁側にしていたのだが、この十年で我が家の周囲も環境が変わってしまった。ハルが我が家に来た八年頃前に道路を挟んだ隣地に高層マンションの計画が持ち上がった。ちょうど、雨降り時のハルの遊び場も欲しい時期だったので、バルコニーに半透明のプラスティックの屋根をかけ、手すりの上部はロールブラインド式のプラスティックのカーテンで覆った。これにより、雨よけと同時にマンションとの間のプライバシー視線を遮ることができるようになった。今や、マンション側の庭に植えられた高く濃い樹木にも囲まれた快適な屋外空間となったわけである。ハルとの早朝の散歩を終えた春先から初夏の一日はここでの朝食から始まる。
朝方の心地よい風と朝日に映える鮮やかな緑に浴して、休暇のホテルのテラスで飲むコーヒー感覚にも似ている。ハルは早速スパンドレルの穴の開いた手すり(道路からは見えにくく、内側からは雪見障子のように良く見える)の間から、風にそよぐ緑の葉と、通り過ぎる通行人の姿を見ながら、道路の風景を楽しんでいる。そばに置いた素焼きの鉢に植えたいくつかのハーブの葉も今のところ少しずつだが順調に育っているように見える。朝食を終え、新聞に目を通してから、ちょっと席を立って戻ってみると、いつの間にかハルが僕の居場所にすわって、きょとんと眺めていた。
