アトリエのハル

 

ハルが僕のアトリエを訪れる理由は二つに限られる。一つ目は、外が突然暗くなり、稲妻が光り、一呼吸おいてゴロゴロと雷が鳴り響くあの時だ。それまで上階にある居間のあちこちで気持ちよさそうに横になっていたハルであるが、急に身震いをはじめ自分の家(ウチ)に 閉じこもる。それでも音が長く続くようであると、こそこそと階下の僕のアトリエに「助けて」と降りてくるのだ。実をいうと、人間の僕も広く背の高い居間の空間であの音を聞くのは苦手だ。何となく頼りになる狭い空間を欲しくなるものだ。そんな時ハルを怖がらせてはいけない。「よく来たね。もうすぐ去っていくから、ここで待っていたらいいよ」と声をかけてあげる。そうすると、カーペットやベッドの上で丸くなり、足を縮めて尻尾を隠し直径四十㎝位の大きさの円形姿勢で時が過ぎ去るのをじっと我慢をして待っている。

 もう一つは、皆出かけてしまって家に僕しかいない時だ。はじめはひとりで平気なようが、時間がたつとのこのこ僕を訪ねてアトリエに降りてくる。犬は人間のそばにいるのを好む習性だがハルは典型的かもしれない。アトリエで、ショパンのピアノやバッハのバイオリンの曲が静かに流れているそばで、安心して足を伸ばして横になっている。この時は一m以上の長さになるようだ。時々目を開け、夕方の散歩はまだかとこちらの様子をうかがっている気配がみえる。ひとりで居間にいるようにさせている場合、定刻近くになってくると「ワンワン」と散歩の催促の声に悩まされるのでこちらの方が都合がいい時もある。 

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