ハルは表情豊かな犬だ。朝、最初に会うと尻尾を振り、普段は立てている耳を後ろに寝かせ、目を細めてうれしそうにおはようの挨拶をする。頭を撫でてあげようとする時に両耳を寝かせようとするのと同じ表現だ。その耳が散歩を始めるときりりと立つ。そして、いつもと違う音や犬の声がする方向に向けて百八十度以上回転するのだ。人が耳に手を広げて当て、音を集中して聞こうとするあの表現と同じようにも見える。鼻先もかすかな臭いがする方向に向けてクンクンと動かせ、地面すれすれに数ミリの近くまで近寄せて、鼻がすりむけるのではないかと心配するぐらいかいで回るのも特技の一つだ。
表情の中でもその眼はダントツに表現豊かである。ハルに食事を与えた後、こちらも食事をとろうとすると、すーっと近寄ってきて、まるで「まだ自分は食べてないよ」と言いたげな目つきをする。「君はもう済んだよね」というと、首を傾げたりするのだ。時間にパンクチュアルなハルは散歩の帰りが少し遅くなり夜になって食事を与えたりすることになると、目が鋭く青くなり「おなかがすいているんだよ」と訴える。
時々にらめっこの遊びをやる。犬は瞬きをあまりしないので、こちらも我慢をして目をそらさないでじっと見ていると、そのうちきまりが悪いのか横へ目をそらすのである。「目は口ほどに物を言う」とはまさに犬の眼の事ではないか。もう一つ、いつもよく居眠りをしているハルが、起き上がると背伸びをして大きなあくびをする。たいくつなのかなと思っていたら、緊張をほぐす動機もあるようだ。それにしても、立派な五感を持った生き物である。
