ある本によれば、犬は五百語くらい覚えるという。ハルとのコミュニケーションはどれくらいできているだろうか。朝起きて初めてハルと会う時、「おはよう」と声をかけると、「ウォ、ウォ―ン」といって尻尾を振ってくる。「クシュ、クシュ」と、くしゃみらしきものもする。うれしいのかな。「おはよう、散歩に行こうよ」と言っているのか。
散歩途中に顔を上げて僕を見つめることがある。「こちらの方向へ行こうよ」か「もっと早く歩こうよ」か。歩くのをやめ、リードを引っ張るときは「もう少し、草むらをかがせてよ」らしい。散歩から帰って朝ごはんの前は足を揃えて僕の歩く先をじっと見つめている。「いつ、ご飯が出るのかな」。
「おいしい、ゆっくりお食べ」と背中を撫でてあげても飲み込むように早く食べ、こちらが朝食を始めるとそばに来てまたじっと見つめる。「フン、フン」と言って鼻を僕の手元にこすりつけてくるときもある。「いい匂いだね」「もっと欲しいよ」かな。ハルが大腸をこわして以来用心して量を制限していたが、説明書を読み間違えて一回分の量が少し少なすぎた。「ごめんね、もう少し増やすからね」。
バルコニーが好きなハルが外に出たいとき、何度もガラス戸と僕の間を往復して知らせてくれる。「今の時間は暑いから夕方まで待とうよ」。夕方の散歩のときカフェの前を通りかかると立ち止まり目を上げて「今日は寄っていかないの?」という仕草をする。上の娘が帰宅すると、「ワン、ワン」と一度吠えて娘の姿を見に走っていき、また元くつろいでいた位置に戻ってくる。「お帰り」の挨拶なのか。
果たしてハルの思いはどれくらいこちらに伝わっているのか、こちらの意図はどこまでハルに理解されているのだろうか。
